Research topics /  研究テーマ

日本や諸外国における農業や食料貿易の変動を,産業を構成する各主体の動態に注目することで,精緻かつ体系的に説明することを目指しています.

 現在,日本農業では,労働力の面で地域農業を長らく支えてきた世代が急速にリタイアしています.また,先祖代々の土地を守る規範意識も弱まり,就農をめぐる価値観も多様化しています.この10年,20年のうちに,日本各地の農業は,その土地利用や労働力構成を劇的に変えていくはずです.日本の都市近郊農村で,あるいは奥地山村や離島,遠隔畑作地帯といった各地域で,農業が人々にどのようなかたちで営まれるようになるのか,換言すれば,農業が日本の国土にいかに根付き直すのかを理解する必要が高まっています.現場で起きている変化を読み取り,今後の展開を体系的に説明することに取り組んでいます.

 オーストラリアでのwagyu生産拡大や日本の牛肉輸出,トンガでの対日カボチャ輸出の盛衰といった,海外の農業生産や食料貿易をめぐる重要な現象についても,個々の生産者や輸出業者の対応を跡づけて分析しています.


<具体的な研究活動>

1.日本の国土周辺部における肉用牛繁殖経営の動態

母牛を飼養しその子牛を生産する肉用牛繁殖経営は,大市場から遠く離れて産業にも乏しい日本の国土周辺部において,数少ない有望な産業となっています.肉用牛繁殖経営は牧草自給が重要で土地利用の粗放化が進む遠隔地に立地しやすいうえ,子牛の最終商品である和牛は輸入牛肉との間に品質面で明確な差別化ができており,また子牛は輸送に定時性が求められず遠隔地の輸送上の不利性も相対的に小さいからです.実際に,肉用牛繁殖経営は沖縄や北海道道東,一部の離島部などで急成長しており,こうした成長が,地域のいかなる農家のいかなる経営的対応により実現されてきたのかを分析することで,国土周辺部における産業としての可能性や展開方向を考察しています.


主な調査地域:島根県隠岐,沖縄離島部,北海道大樹町,島根県中山間地域,大分県中山間地域等

キーワード:肉用牛繁殖経営,国土周辺部

2.海外におけるwagyu生産の拡大と日本の和牛輸出に関する研究

 

オーストラリアでは,日本の和牛遺伝資源をもとにしたwagyuの生産・輸出が急速に拡大しており,世界的に超高級食材としての位置づけを確立しています.さらに近年wagyuの遺伝資源はオーストラリアから世界各国に拡散しており,多くの国で現地産wagyuが市場に出回るようになっています.こうした海外におけるwagyuの生産・輸出・販売・家畜改良等の動向を先駆的に取り上げて,その動向を見通すとともに,日本の和牛輸出についても提言を試みてきました.


主な調査地域:オーストラリア各地,米国各地,チリ各地,パリ,ロンドン等

キーワード:wagyu,遺伝資源,顕示的消費財の輸出

3.肉用牛の生産拡大を目指した地域的取り組みに関する考察

近年の日本では高齢化による生産者のリタイアが進む中で,子牛の生産が大幅に縮小しています.他方で,母牛1000頭を超えるような超巨大経営が現れたり,産地内で農協等が生産者の牛の個体管理を受託する仕組みが築かれたり,低コスト放牧の取り組みが試みられるたりするなど,生産現場では新しい動きも見られています.こうした肉用牛繁殖経営をめぐる新しい取り組みを取り上げ,それらの可能性や限界,地域の生産者に与えている意味等について考察しています.


主な調査地域:全国の肉用牛生産地域

キーワード:地域内受委託体制,CBS,キャトルステーション,超大型肉用牛繁殖経営,低コスト放牧

4.日本の食糧調達の変化と海外農業地域の変動をめぐる研究

1980年代以降,日本は多くの農産物を海外から輸入するようになりました.それとともに,多くの日本企業が日本人の好みに合う農産物を現地で生産すべく開発輸入に乗り出し,日本の食料消費が遠く離れた海外の産地にも大きな影響を与えるようになりました.ところが,近年では日本の購買力が低下する一方,海外では日本食ブームが起き,日本企業が開発輸入を手がけた当初の状況とは大きく変化しています.こうした変化に伴う,国内外の企業の結びつきや企業と農家との関係,産地の変化の動態について分析しています.


主な調査地域:オーストラリア,トンガ,メキシコ,台湾,沖縄,ニュージーランド等

キーワード:胡蝶蘭,トンガのカボチャ,オーストラリアへの食肉企業の進出と撤退,Value Chain

5.地域の農業技術開発・普及システムに関する研究

日本では農業技術の研究開発を国や県の試験研究機関が担ってきました.ところが1980年代後半以降,欧米先進国の農業研究開発では,政府の関与を残しつつも市場原理を導入するかたちでの変革が進められています.特に,オーストラリアでは研究機関の課題設定や成果の評価等に生産者が直接関与する仕組みが先駆的に確立されており,それが農業の労働生産性向上に大きく寄与してきました.このシステムが,実際にいかなる生産者と研究者との対話(相互作用)により成立しているのかを,現場から検討しています.また,現場の生産者間の対話を国レベルのイノベーションに結びつける仕組みについても考察しています.


主な調査地:オーストラリア北部準州内,シドニー,日本の農業試験研究機関等

キーワード:MLA,生産者主導型農業研究開発,ロカリティ&ネットワーク

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