Seminar / ゼミ活動 (大分大学経済学部時代のゼミ活動について紹介しています)

地域の産業や社会をめぐる諸問題について,フィールドワークを通じてその背景やメカニズムを読み取り,将来の展望や問題解決の糸口について考える活動をしています.

 疲弊が進む地域の基幹産業が,今後いかにしてその地域に存立しうるのか.これは,日本の地方圏の多くの地域が直面する重いテーマであり,また,私やゼミ学生が問題意識として根底に共有するテーマでもあります.

 こうした検討には個々の地域や産業に即した考察が不可欠なのは言うまでもありませんが,実際に意味のある分析や提言を行うのは,それほど簡単ではありません.「部外者」からの安易な提言は得てして的外れになりがちな一方,「当事者」の悲観や楽観もともすれば感情や思い込みに流されかねません.いかなる地域や産業を扱うにせよ,部外者が現場に真摯に入り込み,当事者と膝を交えて得られる深い実態理解を積み重ねてこそ,地域の産業としてありうる可能性を冷静に見極められるのではないでしょうか.そうした発信は,地方大学で教え学ぶ私たちだからこそ,できることではないでしょうか.

 大呂ゼミでは,教員の専門である農業・農村にこだわらず,身の回りの地域における産業や社会の諸問題について,フィールドワークを通じた詳細な研究を行い,成果を論文集としてまとめています.


  由布院:加熱する観光地の模索(2012年,1期生)

由布院では,高度経済成長期やバブル期にも団体宿泊客目当ての歓楽街づくりやリゾート開発とは一線を画し,落ち着いた美しいまちづくりを進めてきました.そうした努力が実を結び,個人旅行が主流となった1990年代,由布院は格調高い温泉地として全国的に脚光を浴びることとなりました.しかし,そうした観光地としての成功ゆえに,近年では由布院でも外部から大量の観光客や資本,商品が流れ込み,住民主導の落ち着いたまちづくりや調和ある地域社会の維持が困難になりつつあるように感じられます.由布院で,こうした「外部なるもの」の氾濫とどのように向き合っていくべきか.由布院が直面する事態とそれに対する模索からは,日本で特徴あるまちづくりを目指している観光地が共通して抱える課題が見えてくるのではないでしょうか.こうした問題意識のもと,私たちは「外部資本の進出と町並みの変容」,「地域とは関わりの薄い商品の氾濫」,「バスツアーで大挙する外国人観光客の急増」といった現象に焦点を当て,そのメカニズムや取るべき対応を考察しました.

  竹田市:豪雨災害の避難行動と社会(2013年,2期生)

自然災害からいかに身を守るか.東日本大震災を経験した私たち日本人にとって,この問いはきわめて切実なものとなっています.各自治体では防災が喫緊の課題となり,「災害に強いまちづくり」は,今やどこでも耳にする言葉になりました.竹田市の水害を調査することに決めたのも,災害と「まちづくり」に関する問題関心を,漠然ながらも学生が共有していたからに他なりません.もっとも,現場に入って痛感したのは,水害時の避難行動は地区ごとに大きく異なり,「まちづくり」のあるべき姿も一様ではないという現実です.水の流れは科学的に分析でき,それに基づきダムや堤防といったハード面での対策を練ることはできます.しかし,災害時の人々の行動はそれよりもずっと複雑でソフト面の対策は一筋縄ではいきません.人々は限られた情報をもとに,家族の事情や過去の経験,近隣との関係性等を踏まえて避難するのであり,避難行動は地域の特性に応じて大きく異なります.災害時の 1人1人の行動を跡づけて地区の避難のありようを再現することで,あるべき「まちづくり」を現場から論じられないか.こうした問題意識のもと,私たちは各地区の避難行動を分析しました.

  姫島:漁に生きるー姫島漁業の模索(2015~2016年,3期生)

姫島では,周囲が豊富な漁業資源に恵まれ,しかも共同体による資源管理が有効に機能する中で,沿岸漁業が活況を呈して地域経済を力強く支えていした.ところが,姫島漁業は1990年代より,漁獲量の低迷と魚価の下落により漁家の所得減が深刻化しています.漁業の将来への悲観的な見方が強まり,後継者が参入しないどころか現役世代の離脱までもが相次いでいます.なぜ,姫島の漁業は低迷しているのでしょうか.今後,漁業は地域にどのようなかたちで存立できるのでしょうか.こうした切実な問題意識のもと,私たちは姫島の漁業・漁法について理解したうえで, 「伝統的な資源管理は漁獲技術とともに進歩したのか」「新しい出荷方式は地域の誰に何を可能にしているのか」「漁獲減は漁業経営の継承サイクルをいかに変容させているか」 という問いに答えを与える作業を行ってきました.

  旦野原ハイツ:地方都市郊外住宅団地の現在(2017年,4期生)

大分大学旦野原キャンパスから至近の住宅団地「旦野原ハイツ」は,大分大学の学生の多くが暮らす場所である一方で,地方都市の高齢化する郊外住宅団地としての性格も持っています.1970年代初頭に開発された旦野原ハイツは,開発から約50年が経過する中,当時住宅を購入して入居した世代の多くが70才を超え,空き屋や単身世帯の増大やいわゆる「買い物難民」の問題が発生しています.同時に旦野原ハイツでは,学生アパートが建ち並びゴミ出しのマナーやコミュニティーの希薄化も問題視されています.こうした事態は,地域の一般住民にとっては深刻な問題と捉えられている一方で,一般の学生たちにはそうした事実があることすら,あまり認識されていません.私たちは,旦野原ハイツの諸問題の背景とメカニズムを分析するとともに,問題解決のために誰に何ができるのかを検討してきました.

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